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神戸地方裁判所 平成4年(ワ)505号 判決

原告

阪本亨

被告

西角晴美

ほか二名

主文

一  被告西角晴美及び同朴和彦は、原告に対し、連帯して金一八三万円及びこれに対する平成元年八月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告西角晴美及び同朴和彦に対するその余の請求並びに被告三井海上火災保険株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告西角晴美及び同朴和彦との間に生じた費用を三〇分し、その二九を原告の負担とし、その余を同被告らの負担とし、原告と被告三井海上火災保険株式会社との間に生じた費用はすべて原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告西角及び被告朴は、原告に対し、各自五六八一万九九七八円及びこれらに対する平成元年八月一四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井海上火災保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、一六八一万円及びこれに対する平成四年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により受傷した原告が、被告西角及び同朴に対しては自賠法三条により、被告会社に対しては被告西角との間で締結している自賠責保険契約により、自賠法施行令後遺障害別等級表二級三号(以下単に「何級何号」とのみ略称する。)ないしは三級三号あるいは五級二号に該当するとして(被告会社に対しては三級三号)損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成元年八月一三日午後二時一〇分ころ

(二) 場所 神戸市兵庫区烏原町所属山麓バイパス四・六キロポスト先道路

(三) 加害車

(1) 被告西角運転の普通乗用自動車(以下「被告西角車」という。)

(2) 被告朴運転の普通乗用自動車(以下「被告朴車」という。)

(四) 事故状況

原告が、松原幸子運転の先行車の停車を見て同じく停車したところ、後続車である被告西角運転の被告西角車が原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)の後部に追突し、更に次の後続車である被告朴運転の被告朴車が被告西角車に追突して同車を原告車に追突させ、右各追突により原告が負傷した。

(五) 原告の受傷及び後遺症

原告は、本件事故により頸椎捻挫、外傷性頸部症候群の傷害を受け、次のとおり入通院して治療を受け、平成二年四月九日に症状が固定したとして後遺障害の認定申請をし、同年七月二〇日、一四級一〇号該当と認定されたが、平成三年四月九日付の自賠法責保険後遺障害診断書を添付して異議申立をした結果一二級一二号該当と認定された(甲一ないし八、丙二の1ないし3、三の1ないし4、四の1、2、五の1ないし7、六の1ないし8、七、八、九・一〇の各1ないし4、一一、一二、原告本人、弁論の全趣旨)。

(1) 平成元年八月一三日から平成二年四月九日まで吉田病院に通院

(2) 平成元年九月八日から平成二年一一月一九日まで真星病院に通院

(3) 平成二年一一月二〇日から同年一二月二六日まで神戸市立中央市民病院に入院

(4) その後は同病院に通院

2  責任原因

(一) 被告西角及び同朴は、本件事故当時それぞれが運転していた普通乗用自動車を所有し、運行の用に供していたものであるから、それぞれ自賠法三条により原告が本件事故により受けた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告会社は、本件事故当時、被告西角との間で被告西角車につき自賠責保険契約を締結していた。

3  損害の填補

(一) 被告西角は、同被告の加入する任意保険(訴外富士火災海上保険株式会社〔富士火災〕)を通じて、原告に対し、これまで次のとおり合計三三八万九五四三円を支払つた。

(1) 治療費 一〇四万一五四三円

(2) その他 二三四万八〇〇〇円

(二) 富士火災は、自賠法一五条に基づき被告朴車を被保険自動車とする自賠責保険の引受会社である被告会社に対し、自賠責保険金請求をし、右(一)記載の三三八万九五四三円のうち、一二〇万円の保険金の支払を受けた(弁論の全趣旨)。

(三) 被告西角車を被保険自動車とする自賠責保険の引受会社である訴外千代田火災海上保険株式会社(千代田火災)は、原告から自賠法一六条に基づく損害賠償の請求を受け、原告に対し、本件事故当時の一二級に該当する二一七万円の保険金を支払つた。

更に被告会社も、同様に原告から右一六条に基づく請求を受け、原告に対し、同様の二一七万円の保険金を支払つた。

(四) 原告は、健康保険より平成二年三月二二日から平成三年九月二一日までの間の傷病手当金として合計三〇七万三三〇二円を受領した。

(五) 原告は、厚生年金より平成三年一二月一六日から平成六年二月一五日までの障害厚生・基礎年金として合計四七一万〇九九九円を受領した。

二  争点

1  原告の後遺障害の程度

原告は、頸髄及び頸髄根の障害が残り、就労が不能であるだけでなく、日常生活も介助を要するから、二級三号に、少なくとも三級三号或いは五級二号に該当する旨主張する。

被告らは、本件事故による後遺症は、平成二年四月九日に固定し、その内容は、局所の頑固な頸部痛として一二級一二号に止まるもので、原告主張の後遺障害は、原告が主張するほど重くはないし、重いとしても本件事故による後遺障害ではなく、経年性の既往症による障害に過ぎない旨主張する。

2  原告の損害

3  損害の填補

原告は、傷病手当金及び障害厚生・基礎年金が、本件損害の填補として損益相殺の対象になるとしても、それは逸失利益のみがその対象となる旨主張する。

第三争点に対する判断

一  原告の後遺障害の程度について

原告が、本件事故により、最終的に一二級一二号の後遺障害の認定をされたことは、前記のとおりである。

ところで、原告は、頸髄及び頸髄根の障害が残り、就労が不能であるだけでなく、日常生活も介助を要するから、二級三号に、少なくとも三級三号或いは五級二号に該当する旨主張する。

証拠(甲一ないし九、一三、乙一、丙二の1ないし3、三の1ないし4、四の1、2、五の1ないし7、六の1ないし8、七、一一、一二、原告本人)によれば、原告は本件事故により相当程度の衝撃を受け、原告車もかなり破損したものの、その程度は決して重大とはいえず、本件により外傷性頸部症候群の傷害を受け、当初後遺障害の認定申請をした平成二年四月九日まで入院することなく、吉田病院及び真星病院に通院して外傷性頸部症候群としての通常の治療を受けたものであつて、右症状固定時までの原告の自覚症状は、頭痛、頸部痛、右手指の感覚障害、右上肢の筋力障害、巧緻性低下等で、腱反射の亢進があり、頸椎椎間孔圧迫テストが陽性であつたものの、ジヤクソンテスト、スパーリングテスト及びモーレイテストなどの神経根圧迫の有無の検査には異常はなく、またMRI検査で頸椎第五と第六間に一致して前方よりの軽度圧迫が見られたが病変とまではいえず、当時頸髄、頸髄根の損傷は認められなかつたものであり、格別重大な外傷性頸部症候群とはいえないこと、右両病院での治療の結果、徐々に症状も改善し、保険会社の勧告もあり、原告は、平成二年四月九日に後遺障害の認定申請をしたこと、同年六月時点において、原告は、つまむ、握る、タオルを絞る、紐を結ぶ等の日常の動作は補助用具を使用しないで一人でうまくでき、支持を要しないで立ち上がることができ、手すりを要しないで階段を登り降りできる状態であつたことが認められる。

右によれば、原告の本件事故による後遺障害は、自賠責保険の後遺障害の認定のとおり一二級一二号の局所に頑固な神経症状を残すものと認めるのが相当であり、原告主張の二級三号、三級三号或いは五級二号に該当するとは決していえない。

もつとも原告は、平成二年一一月二〇日に神戸市立中央市民病院に入院し、頸椎症により頸髄及び頸髄根の障害があつたため、椎間板切除及び固定術を行つたが、その後も就労は不可能で、日常生活において介助を必要とするなどの後遺症が残つたとの甲四・丙八(医師松本茂男作成の診断書)の記載ないしは証人松本茂男の証言部分がある。しかし松本医師は、本件事故後一年三か月経過後に初めて原告を診察したものであるうえ、原告の以前の治療につき、カルテを取り寄せたり、その経過を照会したりしていないから、必ずしも本件事故との因果関係につき断定できる立場にないというべきであり、また同医師の証言からしても原告の当時の症状が、原告の既往の脊椎管狭窄に加齢現象が加わつて症状が進行したり、他に外力の作用によつて発症した可能性を認めていることに前記認定の平成二年六月までの原告の後遺症状に照らすと、原告の神戸市立中央市民病院入院以後現在までの後遺症状と本件事故との相当因果関係を認めることはできない。

また原告は、平成五年六月三〇日の本人尋問の際、当初、箸が使えない、ボタンを掛けられない、補助がないと歩けない、散歩は妻に付いてもらう、散歩は一〇日に一回位で、それ以外は外出しない、自動車の運転はできないし、本件事故後に運転したことはないなどと供述しているが、被告会社の依頼によりリサーチ会社の調査員が撮影した写真(検丙一ないし一二〔枝番あり〕)を見せられて、原告自身が改造していない通常の普通乗用自動車を何回も運転し、杖をついて一人で歩いていたことを認めるに至つたことが認められる。右に丙一四、検証を加味して考察すると、原告は、虚構の事実を供述し、高額賠償の取得を図つたといわざるをえず、原告の担当医師に対する愁訴等もにわかに信用しがたい。

以上のとおり、原告の後遺症の固定時期は平成二年四月九日で、その等級は一二級一二号であるから、原告の被告会社に対する請求は理由がない。なお、原告は、右固定後も治療を受け、右結果をもとに異議申立てをして、当初の後遺症の等級が変更されたとの前記の事実経過等を考えると、右固定後の相当期間の治療も慰謝料の一事由として斟酌することとする。

二  損害について

1  入院治療費(請求・一〇万〇〇三〇円)、雑費(請求・四万四四〇〇円)及び付添看護費(請求・一六万六五〇〇円) 〇円

原告が神戸市立中央市民病院に入院したのは、本件事故による後遺症の固定時期後であることは、前記のとおりであるから、右諸費用は、本件事故と相当因果関係になく、相当な損害として認めることができない。

2  通院費用(請求・合計一一万六三二〇円)及び通院付添費用(請求・四六万二〇〇〇円) 一一万四三二〇円

原告は、本件事故による治療として、吉田病院に平成元年八月一三日から平成二年四月九日までの間に二三日間、真星病院に平成元年九月八日から平成二年三月一七日までの間に一三一日間それぞれ通院し、その際原告の妻に付き添つてもらつたが、その当時の片道の交通費が吉田病院の場合が一五〇円、真星病院の場合が四一〇円であつた(甲一ないし三、原告本人、弁論の全趣旨)。

右認定によれば、本件事故と相当因果関係のある通院治療は、原告本人の右両病院の通院費用の合計一一万四三二〇円となる。

しかし、右及び前記認定によれば、原告の通院の際、妻の付添が必要であつたとは認めがたいから、原告の妻の通院費用及び通院付添費用を本件の損害として認めることはできない。

3  休業損害(請求・六八八万六二八六円) 二七二万四八七一円

原告は、昭和八年一一月二六日生まれで、本件事故当時、有限会社エイコー産業に工作員として勤務し、昭和六三年の年間の給与総額が四一六万一四一五円であつたが、本件事故のため翌日の平成元年八月一四日から平成二年八月二七日まで右会社を欠勤し、その間給与の全額が支給されなかつた(甲一〇ないし一二、原告本人)。

右によれば、原告は、平成元年八月一四日から後遺症状固定時の平成二年四月九日までは就業が不能であり、その間給与が支給されなかつたから、原告の休業損害は、次のとおり二七二万四八七一円(円未満切捨て、以下同)となる。

計算式

4161415×239÷365=2724871

4  逸失利益(請求・三三〇六万二四四二円) 五〇〇万四五一七円

前記認定によれば、原告は、右後遺症状固定後は就業が可能であつたが、原告の後遺障害の内容、程度、年齢、職業等を考慮すると、一二級一二号の後遺障害のため、就労可能と見込まれる六七歳までの一一年間、一四パーセントの労働能力を喪失したとみるのが相当であり、原告の逸失利益は、次のとおり五〇〇万四五一七円となる。

計算式

4161415×0.14×8.590=5004517

5  慰謝料(請求・一八五〇万円)

前記の原告の治療の経過、後遺障害の内容、程度等諸般の事情を考慮すると、原告の本件における慰謝料は六〇〇万円が相当である。

6  損害の填補

(一) 原告が、富士火災を通じて、被告西角から治療費一〇四万一五四三円及びその他二三四万八〇〇〇円の合計三三八万九五四三円の支払を受けたことは前記のとおりであるから、原告の前記通院費用一一万四三二〇円については既に填補済みになるというべきである。

(二) 原告が、厚生年金より障害厚生・基礎年金として合計四七一万〇九九九円、健康保険より傷病手当金として合計金三〇七万三三〇二円の各支払を受けたことは前記のとおりであるところ、右各支払は財産的損害のうちの消極損害に損害の填補として損益相殺されるべきである(最高裁昭和六二年七月一〇日判決・判時一二六三号一五頁参照)。すると、原告の前記休業損害及び逸失利益の合計七七二万九三八八円については既に填補済みになるというべきである。

(三) 原告が自賠責保険(千代田火災及び被告会社)から合計四三四万円の後遺症保険金の支払を受けたことは前記のとおりであるところ、同保険の性質上、右支払は、原告に生じた損害のうち人損分の填補に当てられるべきものである。従つて、原告の前記慰謝料六〇〇万円についての損益相殺後の請求額は一六六万円となる(なお同保険金のうちには慰謝料分のみでなく、逸失利益分も含まれるところ、逸失利益分は本来慰謝料分と損益相殺すべきではないが、同保険金のうち慰謝料分と逸失利益分を区別することはできないから、右のとおり損益相殺し、ただ前記慰謝料の算定に当たつて右事情も一事情として斟酌することとした。)。

7  弁護士費用(請求二〇〇万円) 一七万円

本件事案の内容、審理経過及び認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用の額は、一七万円と認めるのが相当である。

二  結論

以上によると、原告の請求は、被告西角及び同朴に対し、連帯して一八三万円及びこれに対する不法行為の日である平成元年八月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告らに対するその余の請求及び被告会社に対する請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

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